斎藤努1991年より大手自動車メーカーの関連会社にて、13年にわたり総務部門に所属、主に新卒採用ならびに教育研修業務に従事。教育研修業務においては社内教育体系の構築、教育研修全体の運営とりまとめを行うほか、新入社員研修をはじめとして階層別研修の社内講師も勤める。2001年、当時強く興味を持っていたキャリア開発への知識を深めるため、厚生労働省指定キャリアコンサルタントの資格を取得。現在は研修講師をはじめキャリアカウンセラーとしても活躍中。

人は生きていく上でさまざまな変化の波、困難の壁に遭遇します。そして昨今、その波や壁は以前とは比較にならないほど高いものになっています。その波や壁を乗り越えるスキルや知識はもちろん大切ですが、それだけでは人はなかなか前に進むことはできません。研修では受講者一人ひとりが、「よしやってみよう、何とかして乗り越えよう」と、解決に向けて自らの意志で第一歩を踏み出すきっかけを提供できるように心がけています。

フランクリン・プランナーとの出会い

セミナー講師になる前は、自動車メーカーの関連会社で人材育成を担当していました。従業員の7〜8割は自動車の整備とか設計を行う技能職・技術職で、自分の腕を磨きたい、目の前の仕事を思いどおりに仕上げたいと考える職人肌の人が多い会社でした。反面、自分の将来を考えるということにあまり関心を持っていない人が多かったこともあり、各自がそれぞれの生き方について考えるきっかけになるような研修があったらいいなと思っていました。

そこで「7つの習慣」セミナーに参加し、。今のフランクリン・プランナーにつながる手帳の存在を知りました。そのときは「手帳を持てば夢が叶う」くらいのインパクトがありました。

その後、「7つの習慣」研修を導入することになり、幸運なことに研修事務局として再び「7つの習慣」を聞くことができました。それから数年会場の後ろで研修を聞き続けているうちに、手帳は手帳にすぎないことに気づき、フランクリン・プランナーを徐々に活用できるようになっていきました。

それまでは、1ヶ月の予定表をいかに早く真っ黒に埋めるか、みたいなスタンスで手帳を使っていたのですが、30歳を過ぎてやっと「タイム・マネジメントってスケジュールをビッシリ埋めるためにやっていることじゃないんだよな」と気づきました。自分の人生だから「本当にやりたいことをやったほうがいいな」という考え方にシフトしていったのです。

斎藤流タイム・マネジメント

実は僕自身はあまりビジョナリーな人間ではなくて、1年先の明確な目標とかゴールを決めて第Ⅱ領域活動(緊急ではないが、重要なこと)に取り組むというよりも、毎日をいかに大事に生きるかのほうがイメージしやすいタイプです。毎日を積み重ねていって、1年が終わったら「今年はちゃんと楽しかったかな?」と確認する。そして、次の1年の楽しみ方の参考にする。それを繰り返しながら、人生のゴールに近づいていけたらいいな、というスタンスです。

自分がそういうタイプだから、期限を切ってゴールを設定して、そこから遡る形で毎日の行動を組んでいくというのが苦手な人の気持ちもわかります。そういう人は、僕のように少しずつゴールに近づいていることを信じながら、毎日を楽しく大切に生きていくのが良い気がします。後から振り返ったときに、そこまで歩いてきた道のりに何かつながっているものが見いだせたら、それでいいのではないでしょうか。

また、僕は遊びについては年間計画を先に立てておきます。ただし一家の主としてはやはり仕事が最優先なので、後からそこに仕事が入ったら遊びの予定は潔く諦めます。遊ぶ計画を立てたら必ず遊ばなければいけない、というふうには考えません。

それなら、なぜ先に遊びの計画を立てるのかというと、当日になってその日の過ごし方を考えるのにも限度があって、今日一日何をして過ごそうかと考えているうちに時間が過ぎてしまい、結局、家でテレビを見て終わるみたいなことになりがちだからです。でも、遊ぶ計画を先に立てておけば、遊ぶための準備ができるので、「しっかり遊ぶ」ことができます。

有意義な時間の使い方

自分個人のことならば自分が決めたとおり、好きなように時間を使えばいいのでしょうが、仕事にしてもプライベートにしても、実際にはさまざまな人間関係の要素が入ってきますよね。貢献とか社会的成功という面も含めたプランニングをうまく進めていくには、やはり自分が持っている大切な役割という面から考えていくのがいいと思います。

たとえば、友人とバーベキューをするとき、僕はバーベキューの前日までが楽しいタイプで、バーベキュー場を予約して、買いものに行って、器具などのメンテナンスをして、それで満足してしまう。極端な話、当日は行かなくてもいいくらいです。どういうことかというと、一緒に行く人たちにいかに楽しんでもらえるかを考えること、そのために前もって準備しておくのが純粋に楽しいし、それが友人たちのなかでの僕の役割だと思っているからです。

誰かが企画して、誰かが準備して、誰かが現地までクルマを運転して、誰かが料理して…。その全部の役割が一つでも果たされなかったら、誰もバーベキューを楽しめませんよね。だから、期待される役割を果たそうとするし、それが楽しさや張り合いにもなるわけです。

このあたりのことは、仕事もまったく同じで、人に喜んでもらうには、その場の思いつきだけでは間に合いません。前もって考えたり、準備したりする時間、つまり第Ⅱ領域の時間が必要になるわけです。その際、打算ではなく、純粋に自分も楽しみながら、誰かを喜ばせたり貢献できたりするのが理想ですよね。

時間を有意義に使うという意味では、自分自身のミッションとか価値観の実現はもちろんですが、さらに周囲との関係性を踏まえながら、「人に楽しんでもらう時間をいかにつくるか」「自分の時間は人のために使う」という発想があってもいいのかなと思います。

やったらいいと思うことはやったほうがいい

人生をよりよいものにしたいと思っている人たちに対して僕が言えることは、「何をしたいのか」をまず自分の中で探してみること、そして「やったらいいと思うこと」があるなら、とりあえず全部やってみたほうがいいということです。

ただ、「何をするか」にあたって、「重要性の基準(何から取り組むか)」で悩む人は多いかもしれません。たとえば、今以上に第Ⅱ領域に時間を割けるようにするために「第Ⅲ領域(緊急だけど重要ではない活動)」を減らしたくても、減らすための取り組みをして、実際に減っていくまでの間は、誰かが対応せざるをえないことも多いですよね。

そういうときは、やらないと仕方ないことはさっさと片付けつつ、頭の中では例えば「この仕事をすることは自分にとってどんな意味があるか」など、自分の人生とのつながりのことなどを考えていればいいと思います。そういうことを意識的にやっていれば、見た目は第Ⅲ領域だけど、自分の中では第Ⅱ領域のことをやっていることにもできるという(笑)。

要は無意識と意識の使い分けで、流されて受け身に回れば無駄になることでも、意識的に動けばそれが戦略になるということです。休暇にも効果的な休養と単なる時間つぶしがあるように、何を第Ⅱ領域にして、何を第Ⅲ領域や第Ⅳ領域(緊急でも重要でもない活動)にするかは、結局、自分自身の意識のありかたの問題だろうと思います。

僕自身、人生はできることならユルく、本音を言ってしまうと、ダラダラと過ごしたいタイプです。ダラダラしたいから、やらなければいけないことを効率よく片づける必要がある。要するに、ダラダラする時間をつくるために、日々、頑張っているとも言えるわけです(笑)。

キャリア形成において、ゴールを目指して計画したことを効率的に行っていくことも大事ですが、もし、やりたいことが見つからない人でも「何か面白そうだな」「やったことないからやってみよう」「誰もやりたくなさそうだから自分がやってやるか」というふうに、目の前にあるものをいかに自分で意味づけしていくか、そこが重要なカギになると思います。その結果、楽しめるときもあれば、そうでないときもあるでしょうが、やってみて初めてわかることがたくさんあって、そこが面白い部分でもあります。無駄を楽しんだほうが人生は豊かになりますし、「無駄=悪」ということは決してないと思います。

僕がセミナー講師になったのも、「自分が人前に立ってセミナーやってるってどんな感じかなぁ」という好奇心からのスタートでした。結果に対してどう折り合いをつけるかというのは、本当に人それぞれだと思いますが、僕の場合は、すべてがしっかりつながっているなと思います。

戻る