『7つの習慣小学校実践記』著者 渡邉尚久 教育現場から「7つの習慣」を伝える中で実感した 「自分を知る」ためのツールとしての「フランクリン・プランナー」

『7つの習慣小学校実践記』著者

渡邉尚久

●TQが与えてくれる気づき

渡邉先生は「7つの習慣」の授業を行う際に、ハイラム・スミスの「TQ(タイムクエスト)」をかなり参考にされているそうですね。

渡邉

「7つの習慣」の授業づくりという点では、『TQ 心の安らぎを発見する時間管理の探究』(キングベアー出版)の前半部分がとても役に立ちました。特に「時間とは何ですか? 時間とは出来事である」という流れは最高ですね。「時間は管理できない、出来事を管理するのだ」と。あれには本当にしびれました。TQにはそういう気づきがいっぱいあるんですよ。

人生のハンドルを自身で握るうえで、コヴィー博士はミッションと役割が、ハイラム・スミスは価値観(バリュー)が大事であると位置づけています。そこで両者を合わせた「もっとも大切なこと」という一つの概念をつくって、フランクリン・プランナーというツールに落とし込みました。それぞれの人の「もっとも大切なこと」を支えているのが、ミッションであり価値観であり役割であるという解釈です。

渡邉

なるほど、二つの切り口を統合することで、よりフランクリン・プランナーでの実践がしやすくなっているわけですね。

自分が真に望む人生を生きるためのタイム・マネジメントという点で、フランクリン・プランナーは非常によく練られたツールになっています。ですから、深く入り込んでいただければ、必ず多くのものを得ていただけると自負しているのです。しかし、その前に使うのをやめてしまう方や、いったん離れてからまた復活される方も少なくないのが現実です。お使いいただく立場からすると、フランクリン・プランナーは少し難しく感じられる面もあるようですね。

渡邉

わかります。フランクリン・プランナーを使わなくても生活できるじゃないですか(笑)。だから、使っていない人に使ってもらおうというのは、なかなかハードルが高いだろうと思います。
でも、周囲の先生方の中にはフランクリン・プランナーに興味を持っている人たちがけっこういますよ。時間管理については特に気になるようです。
あとは、生徒の保護者たち。特に子育て中のお母さんにはいいかもしれないですね。やはり「書く」という行為を通して生活が安定していく効果は絶対にありますから。こまごまと書かなくても、自分の大まかな予定や行動だけでも毎日書き続けていけば、必ず何かが変わってくると思います。

●役割を考えることの深さ

せっかく始めていただいたのに導入のところで挫折、というケースだけは何としてでも食い止めたいと考え、久しぶりに「スターター・パック」をつくり替えました。新商品の「マスター・フォーム・パック」では、タイム・マネジメントの部分を非常に重視しています。中でも目玉はフレームワーク集です。ビジネス・プランニング、タイム・マネジメント、タスク・プランニングなどの基本的枠組みとしてフランクリン・プランナーを役立てていただけるよう、独自にいろいろ練り上げました。

渡邉

すごい、これがプランナーにつくんですね。「ジョハリの窓」まで入ってる! 
いやぁ、これは本当にすごいですね。

最初のうちはどう書いたらいいか戸惑うことが多いミッション・ステートメントも、これを見ていただければ、かなり書きやすくなるのではないでしょうか。

渡邉

ミッション・ステートメントって本当に難しいんですよね。生徒たちに授業でミッション・ステートメントを書いてもらうときには、先ほどのTQとか、フランクリン・プランナーの「スターター・パック」付属のガイドをけっこう参考にして生徒にいろいろな質問をしています。先生が投げかける質問に答えることによって自分についての理解を深めていかない限り、なかなかミッション・ステートメントにはたどり着けないですから。

今までの私どもには、そこの丁寧さが欠けていたと思うんです。たとえば、初めてフランクリン・プランナーを使う方にとっては、「役割を考えてみましょう」と言われたところで、最初は何を書いたらいいのかわからないんですよね。そこで、役割については仕事、家庭、地域、個人に分類して、具体的な例をたくさん挙げることにしました。

渡邉

役割は本当に大切ですよね。最近、若い先生たちと勉強会やセミナーを行う機会が多く、ある熱心な先生に、「それぞれの役割をバランスよく、きちんと時間を取っていくことが大事なんだよ」という話をしたんですよ。そうしたら彼、次の勉強会のときから「今日は家族で集まるので、飲み会は1時間だけ出て帰ります」とか言うようになりまして。「いいんじゃない、いいんじゃない」と思っています(笑)。
たぶん彼は今まで「家族としての役割」というものをまったく意識してこなかったのでしょう。そんな自分に気がついて、家族の一員としての役割に時間を使い始めたわけです。そのことだけでも彼にとってはすごく大きな変化ですし、彼の家族に与える影響も非常に大きいはずです。役割ってやはり深いな、と実感した出来事でしたね。

●書いて俯瞰(ふかん)的に見ることで、自分の中にすとんと落ちてくるアナログの魅力

多くのユーザーの方からお問い合わせをいただくのが、「月間カレンダーに書いたのと同じことを、デイリーやウィークリーのページにまた書かないといけないのですか?」「何の意味があるんですか?」というものです。渡邉先生はどうお考えですか。

渡邉

えーっ! 私なんか、月間に書いて、週間に書いて、デイリーに書いて、さらにWebのGoogleカレンダーにも同じことを入力していますよ(笑)。
仕事は締め切りが決まっていますから、そこまでに毎日どれくらいの進み具合でやっていくかとか、何日かかるかとか、そういう計画を立てるうえでも、デイリータスクに書かないと、私はどうしていいのかわかりません。
しかも、ルーティンの仕事ばかりじゃなく、家族の予定や、講演の依頼なども入ってきます。そんな状態で仕事をこなしていくためには、どうしても手で書いて俯瞰的に見ないと、いつ、どれくらいやるかということが自分の中にすとんと落ちてこないと思うんですよね。その意味でも、やはり手帳っていいなと思います。スマホにも予定は入れられますけど、手帳にはアナログならではの良さみたいなものがありますから。

フランクリン・プランナーについては、これまでいろいろなタイプをお使いいただいてきたと思いますが、渡邉先生が特にお気に入りのもの、あるいは何かご要望などがありましたら、ぜひ教えてください。

渡邉

最初のうちは何も考えず、ひたすらフランクリン・プランナーに書くことを忠実にやっていました。ですから、もちろんバインダーも好きですが、1年間分のリフィルをすべて挟めないという点では、綴じ手帳のほうがいいのかな、と最近は思うようになりました。綴じ手帳に方眼タイプがあったら最高ですね。

●中学生、高校生たちへの「MY GOAL」

昨年、中・高生向けフランクリン・プランナー「MY GOAL(マイ・ゴール)」という綴じ手帳を発売しました。渡邉先生はご存じでしたか。

渡邉

高校生の甥にプレゼントしようと思って購入しました(笑)。彼が自分の人生をしっかりと考えていくにあたって、「じゃあ今週やりたいことは何なのか」という視点を持って、ちゃんと毎日を大切に生きていってほしいと思いまして。

ありがとうございます。「ゴールは人から与えられるものではない」「ゴールは自分で設定しよう」「自分のゴールをちゃんと持とう」ということを中・高生の皆さんにしっかりお伝えしたくて、「MY GOAL」というネーミングにしたんです。

渡邉

そういえば、『マイ・ゴール これだっ!という「目標」を見つける本』(ケン シェルトン、リチャード・H. モリタ著、イーハトーヴフロンティア)という本がありましたよね。「自分らしさというものを考えずには何もできない」ということが書いてあって、けっこう影響を受けました。

ハイラム・スミスも「自分らしくあれ、しかも徹底的に」と言っていますね。

渡邉

大事なことですよね。いわゆる「だめ教員」になってしまう人って、結局、自分のことがよくわかっていないことが多い気がするんです。なので、若い先生たちには、「自分らしさということはどういうものか、ちゃんと考えなければいけないよ」という話をよくするようになりました。そのためには、自分について考える時間が何よりも大事ですし、フランクリン・プランナーはいいツールになってくれると思います。

この「MY GOAL」の使い方を中・高生の皆さんにお伝えするセミナーができないものかと今、考えているところなんです。といっても、手帳の使い方をレクチャーしたいのではなくて、何を大切にして毎日を生きていくか、そういったことをきちんと若い方にお伝えしたいわけです。それには伝え方が非常に大事になってくるように思います。

渡邉

うちの小学校に教育まんが家の松田純さん(※1)をお招きして、6年生を対象に自分の人生とか未来について深く考えていく授業をやっていただいたところ、予想を超える素晴らしさでした。それを受けて、次は望月俊孝さん(※2)が提唱されている「宝地図」を生徒たちにつくってもらうことにしたんです。要は自分が将来なりたいイメージを、写真などのビジュアル材料を使って発展させていく授業です。
その結果、宝地図だけをつくった子と、松田さんの授業を受けてから宝地図をつくった子とでは、つくる宝地図が全然違うんですよ。小学6年生くらいの年頃で自分の夢みたいなものがしっかりイメージできるというのは、すごく大事なことなんだなと痛感しました。
手帳も、何のための手帳かといったら、まずは夢や目標あってのものであり、それに向かって毎日をどう生きるか自分を導くものです。だから、夢や目標がなければ手帳を使う意味があまりないんですよね。だからこそ、パッと見てわかる、目に見える形になっていることが本当に大切なのだと、改めて感じているところです。

(注釈)
※1 教育まんがとキャリアデザインを融合させた「心の探求のツール」としての『まんが教育』メソッドを開発。企業研修などのビジネスシーンや、大学でのキャリア教育、 地域・全国の小中学校でも精力的な講座活動を行う。国際まんが教育協会代表、内閣府支援『まんが教育プロジェクト』代表。

※2 夢実現(宝地図)、能力開発(フォトリーディング)などを主体とする人材教育に携わる。『幸せな宝地図であなたの夢がかなう』『ワクワクしながら夢を叶える宝地図活用術』(共に、ゴマブックス)など、話題の著者多数。